札幌遠友塾の記事

自主夜間中学「札幌遠友塾」で卒業式
2005年03月24日

学びの場 通う足絶えず

90年設立 224人巣立つ

自主夜間中学「札幌遠友塾」で卒業式

家庭の事情や病気、戦時中の混乱などさまざまな事情で満足に義務教育を終えられなかった人々が通う自主夜間中学「札幌遠友塾」の卒業式が23日夜、札幌市中央区の市民会館であった。60代の女性5人が「卒業証書」を手にし、90年の設立以来、卒業生は224人になった。

(報道部・古城博隆、佐藤恵子)

笑顔で卒業証書を受け取る卒業生=23日午後7時、札幌市中央区の市民会館で

卒業式には在校生やスタッフ80人が集まった。卒業生は証書を受け取った後、「初めは自分の無知が出て恥ずかしいかなと思った」「友人や家族にいつまで続くのかなどと言われ『よぉし』と思った」と笑顔であいさつした。

卒業式を翌週に控えた16日夜。市民会館2階。最後の授業では、羊蹄山の地形図を題材に、地図の読み方を学んだり、発泡スチロールを使って模型作りに挑戦したりした。

「普段、平らに感じているでしょう。でも、(札幌の)標高は0メートルじゃありません。海が基準なので」

札幌聾(ろう)学校教諭の星史朗さん(51)が解説すると、「うんうん」とみんなうなづく。終了後、手作りの模型を手に「孫に見せるわ」「床の間に飾ります」と充実感をかみ締めながら教室を後にした。

授業は、毎週水曜日の午後6時20分〜9時。3年間で国語、数学、英語、社会の4教科を中学1年程度まで学ぶ。

授業について行けず、辞めてしまう人もいた。このため03年からは、小学校1年生レベルの「あいうえお」や足し算から学ぶ「じっくりコース」を始めた。

多くのボランティアが生徒らを手助けする

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札幌遠友塾の会社員工藤慶一代表(56)は「信じられないかもしれないが、義務教育を修められなかった人が今もいる」と話す。

北区の主婦高橋フサ子さん(65)は5人姉弟の一番上。中学校は卒業したが、働きに出ていた母親に代わって弟たちの世話で、欠席や早退が多かった。「もう一度きちんと勉強し直したい」と門をたたいた。「この3年間は楽しくて仕方がなかった」

東区の主婦大村ツル子さん(68)も中卒資格を持つが、アルファベットを上手に書きたいと入学。「話題のライブドアもうまく書けますよ。英語の看板を見るのが楽しい」と話す。

塾の在籍者は64人。60、70代の女性が多いが、年配者だけではなく、20代の不登校経験者も通っている。

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函館や釧路から通う人たちもいる。工藤さんは「夜間中学が主要都市に1校ずつあるのが理想的。毎日授業のある公立の夜間中学も道内に1校は必要なのでは」と話す。

ここを卒業しても、高校受験や調理師、理容師などの国家資格の受験に必要な中学校卒業資格は得られない。しかし、文部科学省の認定試験に合格すれば高校受験資格が得られ、道が開ける。

公立夜間中学の設置について、道教委は「各市町村の判断」、札幌市教委は「公式な要望がなく、現段階で計画はない」という。

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夜間中学   文部科学省が「中学校夜間学級」と呼ぶ公立の夜間中学は、8都府県に計35校ある。道内にはなく、民間の自主夜間中学も札幌遠友塾のみ。

全国夜間中学校研究会の推計では、義務教育未修了者は全国に百数十万人、公立夜間中学で学ぶ生徒は約3千人だ。最近では在日外国人や不登校経験者が通う例も増え、全国の夜間中学の教師や生徒は03年2月、公立夜間中学の増設への勧告を求めて、日本弁護士連合会に人権救済を申し立てた。

札幌遠友塾は、元教員や主婦など約50人のボランティアが、毎月1500円の受講料と賛助会員約120人からの支援をもとに運営。4月5日まで新1年生を募集している。定員は30人程度で、入学試験はない。ボランティアスタッフも募集中。問い合わせは、ボランティアスタッフの守田恵美子さん(011・571・2119)まで。
http://mytown.asahi.com/hokkaido/news.php?k_id=01000149999993013