オバァ、60年目の卒業証書 沖縄戦で中学未修了

朝日新聞』2009年3月11日づけ

第2次大戦で悲惨な地上戦に巻き込まれた沖縄には義務教育を修了できなかった人がたくさんいるが、当時学齢期だった6人のお年寄りに今月、初めて中学の卒業証書が渡されることになった。今年度から県が設けた特例制度により、民間の自主夜間中学で学んだ内容が正式に認定された。


 お年寄りたちの学びの場は、不登校の子どもらを受け入れているNPO法人「珊瑚(さんご)舎スコーレ」が那覇市内のビルに構えた教室だ。約50人が、月〜金曜の午後6時から開かれる夜間学級に通う。平均年齢は72歳。


 「ぼうくうごうをほるところがなく、家のむかいの山すそにしぜんごうがあった」。「古い記憶」という課題で作文をつづる国語の授業で、神山由子さん(74)はこう書いた。沖縄戦では3歳の弟を背負って山奥に逃げ込み、マラリアにかかった。一命は取り留めたが、看病してくれた母は亡くなった。「あのころの記憶を口にすると、涙が出てしまう」


 夜間中学校は、生活のため昼間働かなければならない生徒を主な対象に戦後、大都市圏を中心にできた。戦中戦後の混乱で勉強できなかった人も学び、現在は全国に35の公立校があるが、沖縄にはずっとなかった。


 「学びの場を取り戻さないと戦争は終わらない」(星野人史代表)とスコーレが3年制の自主夜間中学をつくったのは04年。退職教員や大学生らがボランティアで参加し、ひらがなやアルファベットの初歩から教えた。


 ただ、あくまで民間の学習機関という位置づけで、全課程を終えても正式な卒業扱いにはならない。もっと学びたいと思っても高校に進学する資格は得られなかった。

http://www.asahi.com/national/update/0311/TKY200903110031.html