読み書き歓喜 77歳の中学生

朝日新聞』2007年12月07日

◇きょう体験談発表


北九州市小倉南区の夜間学級に通う藤田ミツエさん(77)が7日、広島市で開催中の「全国夜間中学校研究大会」で体験談を発表する。義務教育を受けられず鉛筆さえ持ったことがなかった藤田さんが、自分で手続きしてパスポートを手にした感激を話す。「読み書きができる喜びを伝えたい」と意気込んでいる。(岩田正洋)


藤田さんは1930年に熊本県で生まれた。12人きょうだいの長女。知人の借金の保証人になっていた父親が農地や財産を取られ、8歳の時から働きに出たため、小学校にも通えなかった。19歳の時、父親が死去。きょうだいの学費や母親に仕送りをするために26歳まで働いた。


27歳の時、16歳年上の藤田福碩(ふく・じ)さんと結婚。生活に必要な手続きで読み書きを伴うものはすべてやってくれた。


しかし、02年4月に福碩さんが他界。役所に手続きに行っても1人ではできず、郵便局に行っても現金をおろせずに苦労した。「死のうと思ったこともあった」が、「福碩さんに心配をかけちゃいけない」と思い直し、04年12月、知人に勧められて「よみかき教室・城野」の門をたたいた。


この教室は05年4月、北九州市立城南中学校の夜間学級になった。運営費として市から年間150万円の補助金を受けているが、全国に35校ある公立の夜間中学とは違う。退職したり、昼間の授業を終えたりした教員やボランティアが指導する自主夜間中学だ。


藤田さんはまず、力を抜いて鉛筆を持ち、曲線を書く練習から始めた。文字も、最初は「い」と「こ」を逆に書くほどだった。しかし、いつも教室に一番乗りする持ち前の頑張りで上達。「とにかく鉛筆を持てることがうれしくて、食べるのも寝るのも惜しんで勉強した」。漢字は最初に「書」を覚え、今では「福碩」や「貰(もら)う」といった難しい字も書く。


研究大会で発表するのは、昨年夏、夜間学級の仲間と韓国へ旅行するためにパスポートを取得した体験。区役所で戸籍謄本を取るための書類を書き、パスポートの申請用紙は1時間ほどかけ、ゆっくり慎重に書いた。


受け取りの日。名前を呼ばれパスポートを手にすると、涙がこぼれた。係員に「どうしたのですか」と言われ、「パスポートがとても重たい。毎日勉強して良かったなあと思う」と答えた。周りにいた人たちから「よかったですね」と声をかけられたという。


大会前は原稿用紙3枚ほどの文章を読む練習を続けた。「この年で字が覚えられたことがうれしい。同じような苦しみを持つ人に、私でも書けるようになったと訴えたい」と話している。

http://mytown.asahi.com/fukuoka/news.php?k_id=41000000712070002