在日コリアン高齢者向け介護施設:ここは「ふるさと」 NPO、大阪・生野に開所

◇韓国・朝鮮語、キムチに民謡


在日コリアン高齢者の短期入所と共同生活を支援する介護施設が今年9月、大阪市生野区鶴橋2に開所する。介護スタッフは韓国・朝鮮の言葉を話し、家庭料理も提供する。慣れた環境にいることが、認知症の高齢者らの健康を保つカギだとされるからだ。65歳以上の外国人は全国に約11万人おり、約8割が韓国・朝鮮人。外国人高齢者の介護問題は今後大きくなるとみられ、先駆的な事業として注目されそうだ。【花岡洋二、撮影も】


◇1割負担、宿泊施設も


NPO在日コリアン高齢者福祉をすすめる会大阪」=宋貞智(ソンチョンヂ)理事長(48)=が、在日の多い地区に施設を新築し、運営する。通所、訪問、宿泊を組み合わせる小規模多機能型居宅介護施設(定員25人)と、認知症対応型グループホーム(同18人)を併設。キムチなど家庭料理を出し、伝統的な民謡など娯楽や行事を楽しむ。介護保険に基づく事業で、利用者は1割を負担する。


介護ヘルパーをしていた在日2世の宋さんが5年前、特別養護老人ホームで在日1世女性に接した経験が動機の一つ。女性は入所直後に日本語を話せたが、1年で意思疎通できなくなり、認知症が進んでパンツに食べ物を入れるようになった。


宋さんが韓国語で問いかけると、女性は「家で待っている母に持って帰る」と韓国語で答えた。その時、母親はいなかったが「お母さんは、もう食べられましたよ」と諭すと、行為は止まった。認知症が進むと日本語を忘れる人が多く、話もしなくなるためさらに症状は進むという。


在日の高齢者の多くは無年金。地区で孤立し、夫婦で老老介護を続けるケースもある。同NPOは02年から、在日に配慮した通所、訪問介護サービスを提供しており、本人負担をできる限り抑えてきた。常時約70人が利用し、中には「帰りたくない」と訴える独居老人もおり、泊まれる施設を計画した。


宋さんは「少数者への福祉サービスは本来、行政の責任でやるべきことだ。社会問題として広く認識してほしい」と話している。問い合わせは同NPO(06・6715・0133)へ。


◇嵯峨嘉子・大阪府立大講師(社会福祉)の話


外国人高齢者は今後どんどん増えるが、在日韓国・朝鮮人の1〜2世はそのトップバッターだ。介護保険という制度へのアクセス権を保障する意味と、この問題を広く知らせる点で意義の大きい取り組みだ。

毎日新聞 2007年6月29日 大阪夕刊

http://www.mainichi-msn.co.jp/kansai/archive/news/2007/06/29/20070629ddf041040018000c.html