よみかき教室:開設10周年 生徒とボランティアの先生、二人三脚−−福岡・博多

 ◇自信取り戻した10年−−祝賀会で笑顔の輪


差別や貧困などを理由に読み書きを学べなかった人たちが通う福岡市の自主夜間中学「よみかき教室」が、開設から10周年を迎えた。識字教育だけではなく「あこがれの学校生活」も取り戻すため、生徒と大学生らボランティアが二人三脚で歩んできた。16日夜、教室が置かれている同市博多区の市立千代中では祝賀会があり、生徒たちの笑顔があふれた。【松本光央】


 ◇「よみかき教室、私の眼鏡」


教室は97年5月、教師有志らの提案で市教育会館の一室で始まり、02年4月から千代中の空き教室の使用が許可された。現在は在日韓国・朝鮮人の女性らを中心に50〜80代の25人が週2回、午後6時半から小学校の国語の教科書を使って学ぶ。大学生や退職教師ら約30人が先生役となり、マンツーマンで読み書きを教える。


祝賀会には約80人が参加。この10年、一度も休むことのない「皆勤賞」で、あいさつした金奇粉(キムギブン)さん(85)は「先生たちが温かく教えてくれたから」と振り返った。


金さんは68年前、福岡にいた韓国人男性と結婚するため来日。5人の子どもを育てたが「この字、何て読むの」と子どもに日本語を聞かれても答えられず「それが申し訳なくて、一番つらかった」。


知人に誘われて教室に通い始めた当初は「あいうえお」を覚えられず、道すがらに声を出して練習した。毎日ノートにびっしりと字を書き続け、次第に見慣れた街並みにあふれる看板や標識が読めるようになった。「よみかき教室は私の『眼鏡』」と笑う。


ボランティアの筑紫女学園大文学部4年、井形さゆりさん(21)は「つらかった過去も話してくれますが、とにかく教室はいつも誰かがしゃべっていて座談会みたいな雰囲気」。同学部4年の益満桃子さん(21)は「いつも元気な生徒の皆さんに、私自身も力をもらっています」と話す。


教室では関西への修学旅行や遠足、文化祭も実施し、学校生活を再現してきた。こうした活動を収めた写真のスライドショーも祝賀会で行われ、全員で校歌も歌った。教室代表の木村政伸・同大教授は「読み書きだけでなく、自信を取り戻していく皆さんの姿を目の当たりにした10年だった」と振り返った。


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文部科学省によると、全国には06年5月現在、公立の夜間中学が35校あり、戦中・戦後の混乱期に学校に通えなかった人など2421人が読み書きなどを学んでいるという。九州に公立は1校もなく、福岡県内でも福岡市の「よみかき教室」や北九州市の「青春学校」などの自主運営に頼っている。


毎日新聞 2007年5月17日 西部夕刊

http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/seibu/shakai/archive/news/2007/05/17/20070517ddg041040002000c.html