読売新聞の記事より

入試の日本語 高い壁

高校入試が終わった後も、日本語や教科の勉強を続ける生徒たち(たぶんかフリースクールで) 外国籍の子供たちの高校進学には、障害が多い。

東京・荒川区の住宅街にある一軒家の2階に、中国やネパール、タンザニアの子供たちが集まる。ここは、「多文化共生センター・東京21」の事務所で、昨年6月に開設された「たぶんかフリースクール」の教室でもある。

今月16日には、中国籍の生徒4人が高校入試問題集を使った授業を日本語で受けていた。講師の野島直子さん(39)は「本文の内容と合わないものを、一つ選べ」と書かれた問題文を男子生徒に読み上げさせると、すかさず解説を入れた。

「『合わないもの』を選べ、ね。『正しくないもの』ということだよ」。日本語の理解は授業で最も力を入れる点だ。野島さんは「実力があっても問題文の意味が分からなければ、試験問題は解けないからです」。

フリースクールとして初めて迎えた今年の高校入試では、受験した7人が全員合格した。ただ、この4人のように生徒たちは卒業式まで引き続き日本語などの指導を受けていた。

その大半は親の仕事のために来日し、授業料が比較的安い都立高校への進学を希望する子供たちで、入試を突破したとはいえ、日本語はまだおぼつかないからだ。

「東京21」は、NPO法人「多文化共生センター」の活動拠点の一つ。拠点はこのほか、大阪や広島など4都市にあり、東京21は2001年の発足以来、高校進学ガイダンスや教育相談を行ってきた。代表の王慧槿さん(56)が同校設立の背景を語る。

「母国で中学を卒業したものの、日本語ができない子の高校進学は難しく、支援する場が必要だと痛感したからです」

義務教育年齢にある外国籍の児童生徒は、公立小中学校で受け入れるが、それ以外は自己責任で、というのが文部科学省の立場。だが、来日したばかりの生徒の多くが日本語ができず、高校受験は高い壁だ。日本語に慣れるまで中学で学べればいいが、国から判断を委ねられている自治体の大半が義務教育を修了した生徒の中学受け入れを認めていない。

在日中国人で、元高校教諭でもある王さんは言う。

「その結果、中学にも高校にも通えず、行き場を失う子供が多い。日本語学校は、大人を対象としたものが多く、高校や入試制度の情報も入りにくいのです」

同校では火曜から金曜まで、午後の3時間は中学卒業者を、夜の2時間は中学在籍者を対象に授業する。指導するのは、教員免許か日本語教師の資格を持つ王さんら7人。生徒数は増減があるが、最多だった先月は19人だった。授業料は午後が月3万円、夜間は月2万円だ。

王さんが語る。

母語が確立してから来日した子供たちは、2言語を駆使するバイリンガルに成長できる可能性があり、日本の社会にとっても有用な人材になるはず。制度がもう少し柔軟であれば、彼らもこんなに苦労しなくていいはずなのですが」(松沢みどり)

8131人…公立高校に在籍する外国人生徒数

文部科学省の「学校基本調査」によると、公立中学に在籍する外国人生徒は1万9911人いるのに対し、公立高校に在籍する外国人生徒は中学の半分にも満たない(2004年度)。また、1991年度には1万1781人の外国人生徒が公立高校に在籍していたが、それ以降は減少傾向にある。しかし、その理由は調べられたことがなく、外国籍の子供たちの高校進学率の調査もない。

(2006年3月28日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20060328us41.htm