関わり求める心に寄り添う=埼玉・川口自主夜間中学代表、金子和夫さん

父親が小学校の校長で、9人兄弟のうち8人が教育関係に勤める家で育ち、末っ子の私も自然に「先生になりたい」と思うようになりました。ベビーブームまっただ中の時代で、小学校の教室には50人がぎっしり。学習も自分でしなければならなかった。分からない時は兄が勉強をみてくれました。苦労しながら勉強してきたので、小学校の教員になった今は、子供たちに少しでも分かるように教えてあげたいと思っています。

95年の夏休みに、憲法の保障する「教育を受ける権利」についての本を書くため、川口自主夜間中学(夜中)に取材に通いました。最初に訪ねた時は、20代の男の人が1人だけポツンと教室にいて、よほど勉強がしたかったのでしょう、「平仮名も読めないんだ。勉強を教えてくれる?」と頼んできました。その出会いが衝撃的で、自分は教員だから勉強を教えなきゃいけないと夜中に参加するようになりました。男性がしきりに「誰も話を聞いてくれなかった」と言ったのを覚えています。

夜中に来るのは、心に傷を負った人がほとんどです。自分の中で育ちきれなかった部分があるから、「学習したい」という気持ちに結びつく。不登校の子たちも来ますが「誰か私に関(かか)わってくれる人はいる?」と助けを求めているような印象を受けます。

今の学校では、教員の仕事が学習指導要領などに縛られて忙しく、「教え込む」ことが中心で、子供が関わりを求めてきても、気持ちに寄り添えないことが問題だと思います。子供は満たされないから学校に来なくなります。

自分も教員として、夜中に来るまでは、単に教えれば分かってもらえると思っていました。でもそれだと「(夜中は)おれの場所じゃない」と拒否されるでしょう。夜中が大切にしているのは「学びあい」の気持ちです。相手の立場に立ち、学習問題をわかるためにはどこが重要なのか一緒に考える。それが夜中に来る人たちの「自分はここで受け入れられている」という安心感につながっているのだと思います。<聞き手・斎藤広子>

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■人物略歴
1947年埼玉県新座市生まれ、東洋大卒。教員として同県川口市の小学校に勤務。95年から10〜79歳の再学習者や在日外国人らがボランティアと1対1で学ぶ「川口自主夜間中学」に参加し、00年から代表。

毎日新聞 2005年12月26日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/gakkou/archive/news/2005/12/20051226ddm004070031000c.html