メッセージ

有吉英樹


岡山大学教育学部


日弁連が8月10日に発表した「意見書」は、戦後日本教育史におけるまさに
金字塔と言えるものだと思います。


「意見書」は国に対して、実態調査を実施し、公立夜間中学を市町村に設置す
るように指導・助言をするとともに、財政的措置を行うよう求めています。


戦争や貧困、差別など様々な理由によって義務教育を全く受けることができな
かった人たち・義務教育を修了できなかった人たちの「教育を受ける権利」の保障
について、国はこれまで解決策を講じてきませんでした。


10年に一度、実施されている国勢調査では、最終卒業学校の種類等に関する
調査項目があります。この中に、「未就学者」という項目が見受けられます。その
定義は、「在学したことのない人又は小学校を中途退学した人」となっています。
この未就学者の人たちが、読み書きに不自由な生活を強いられている人たちであろ
うと推測されます。


読み書きに不自由している人たちが、小さな活字でしかも難しい漢字がいっぱ
いある国勢調査用紙に自分で記入するとはまず思われません。彼・彼女たちの実数
は、国勢調査の数値の数倍、或いは10数倍いるだろう、とも言われています。


2000年度の国勢調査によると、「未就学者数」は15万8,891人。こ
れを1990年度と比べると5万8,715人の減少、1960年度と比べると実
に132万9,509人の減少、となっています。こんなに多くの人たちが、義務
教育を受ける権利を保障されることなく、他界したのです。


公立夜間中学校ができるまでのつなぎとして、1994年5月に誕生した北九
州の自主夜間中学「青春学校」はすでに13年目に入っています。未だ公立夜間中
学校は実現していません。この間に、高齢や病気などで亡くなられた方は、10人
を超えています。高齢のため体力的に学習するのが困難になり、青春学校から遠
ざかった人たちもいます。


学齢期に就学することができなかった人たちの多くが、高齢であることからし
ても、公立夜間中学校を設置することは、国および行政当局の喫緊の課題であります。


「意見書」が史料としての金字塔に留まるのではなくて、国籍等を問わず読み
書きに不自由している人たち、ひとり一人の生活現実と人生にとっての金字塔とな
るように、国・行政・世論に広く働きかけ夜間中学校設置を1日も早く実現させてい
きたいものであります。