『朝日新聞』「松戸自主夜間中、25年を刻む 記念誌「北斗」を発行 千葉」2009年8月18日

公立夜間中の開設を求めて始まった松戸自主夜間中の25周年記念誌「北斗」が発行された。戦争の混乱やいじめによる不登校で学ぶ機会を奪われた人たちや、言葉や文化の違いに戸惑う外国籍の人たちなど、学んだ生徒は延べ1300人になる。生徒やスタッフが寄稿した記念誌は、学びを通して生きる力を獲得していく記録である。(園田二郎)


松戸自主夜間中は、83年8月、市民有志によって開校した。それから26年。毎週火曜と金曜の夜、市勤労会館を借りて続いている。


生徒は、年齢、国籍、居住地を問わない。授業料もいらない。教えるスタッフも無給。教材はスタッフの手作りだ。カンパやフリーマーケットの収入などで運営してきた。


1年がかりでできた記念誌には、生徒やスタッフ70人以上が自主夜間中への体験や気持ちをつづった。


生徒のうち最高齢の高松なかさん(79)は、「学ぶことがほんとうに楽しい」と書いた。十年前から通う。学生時代は戦時中で、勤労奉仕に追われて勉強はできず、中学にも行っていない。「以前、小学生の長女に尋ねられたが答えられず悲しかった。いまは孫からきかれても答えられる」


不登校から立ち直った生徒も少なくない。菊地悠人さん(26)は、「仲間との出会いがかけがえのない財産」と書いた。小学校高学年から不登校になり、中学にはまったく行かなかった。しかし夜間中に通う中で定時制高校、大学へと進学。大学院へも合格した。織井一浩さん(32)も、「自分に合った課題を見つけ、自分のペースで学習することで、定時制高校への足がかりができた」という。


中国など海外から来日した人も増えている。台湾から3年前にきた福原秀子さんは娘2人と夜間中へ通う。最初は日本語がまったくわからなかったが、昨年は日本語検定3級に合格した。


ここでは、先生も生徒も分け隔てがない。元スタッフは、教室のにぎやかさを「めだかの学校」と書き、別な元スタッフは、教材を作る楽しさを「ワクワク感」と表現している。


2日には、初めての同窓会があり、70人が集まった。開校から間もない時期に学んだ中川俊雄さん(78)は、「読み書きができるようになり、自信がつき、人前で話ができるようになった」と誇らしげに話していた。不登校から立ち直り、高校教諭になった男性も駆けつけた。


しかし、公立夜間中の開設のめどは立っていない。「松戸市に夜間中をつくる市民の会」代表の藤田恭平さん(82)は、「25年間、市は何もしていない」と嘆いた。同窓会の会場の壁には、「私たちは松戸自主夜間中学の歴史を刻んできた。一日も早く、松戸公立夜間中学の歴史を刻みたい」という文が掲げられていた。記念誌は800円。問い合わせは、榎本さん(090・3103・1006)へ。

http://www.asahi.com/edu/news/chiiki/TKY200908180283.html